9つの取組をご紹介
学校内の英語対応の推進
神工有志ボランティアは、学校の英語版パンフレットの作成・更新と、実習教室にある英語案内の見直しを進めています。目的は、単に日本語を英語へ置き換えることではありません。学校を初めて知る人にも、どのような学びがあり、どのような設備を使い、そこで何ができるのかが分かる情報環境を整えることです。工業高校には専門用語や独自の設備名が多いため、正確さを保ちながら、読み手が理解できる言葉へ整理する必要があります。英語を「学ぶ教科」だけで終わらせず、学校の技術や魅力を外へ伝えるために実際に使うこと。それが、この取組の中心です。
工業高校の魅力は、言葉にしなければ伝わらない

工業高校には、一般的な教室だけでなく、機械、電気、建設、デザインなどの専門的な学びを行う実習教室や設備があります。在校生にとっては日常的な名称でも、初めて学校を訪れる人にとっては、その名前だけでは何をする場所なのか分からないことがあります。さらに、日本語を十分に読めない人であれば、学校の特色を知る以前に、必要な情報へたどり着くこと自体が難しくなります。
そこで私たちは、英語を使って学校の情報への入口を増やすことを考えました。ただし、英語表記を付ければ課題が解決するわけではありません。大切なのは、誰が読むのか、その人は学校について何を知らないのか、どこまで説明すれば次の行動につながるのかを考えることです。学校案内と実習教室の表示では役割が異なるため、同じ方法で訳すのではなく、それぞれの場面に合った情報の量や表現を整えています。
英語版学校パンフレットを、生徒の手でつくる
この取組で大きな形になったものの一つが、英語版学校パンフレットです。学校全体の特色や学びを紹介する資料は、学校をまだ知らない人が最初に手にする情報の一つです。そのため、日本語版の文章を一文ずつ直訳するだけではなく、学校独自の制度や専門的な内容を、背景知識のない読み手にも理解できるように組み立て直す必要があります。
私たちは、何を残し、何を補い、どこを簡潔にするかを考えながら英語版の作成を進めてきました。県の公式記録にも、英語版学校パンフレットを完成させ、国際教育を実践した取組として記録されています。これは、英語を使った成果物をつくったというだけではなく、学校の特徴を自分たちで捉え直し、それを別の言語で説明できる形にした成果でもあります。
パンフレットづくりを通して見えてきたのは、「知っている人には分かる説明」と「初めて見る人にも分かる説明」は違うということでした。学校の中で日常的に使っている言葉ほど、説明が省略されがちです。英語化する作業は、その省略に気付き、日本語の情報そのものを見直す機会にもなりました。
実習教室の英語案内を、現場に合わせて見直す
パンフレットが学校全体を知るための入口だとすれば、実習教室の案内は、実際に校内を移動しながら場所や学びを理解するための情報です。そこで私たちは、実習教室にある英語表記についても確認し、必要に応じて更新を進めています。
工業分野の言葉には、専門的な名称が多くあります。日本語の名称に対応する英単語を置くだけで意味が十分に伝わる場合もあれば、その場所で何を学ぶのか、どのような設備を扱うのかまで考えなければ伝わりにくい場合もあります。特に校内案内では、長い説明を読ませることより、短い時間で場所の役割を理解できることが重要です。一方で、短くしすぎて本来の意味が変わってしまっては案内として機能しません。
そのため、表記を考える際には、専門性と分かりやすさの両方を意識します。正しい専門用語を使うこと、初めて見る人が意味を推測できること、ほかの案内との表記がそろっていることなどを確認しながら、学校全体として情報がつながる状態を目指しています。
直訳ではなく、「伝わる英語」を考える

英語対応で最も重視しているのは、難しい表現を使うことではなく、必要な内容が相手に正しく届くことです。日本語では一語で通じる名称でも、英語では補足が必要になることがあります。反対に、日本語の説明をすべて英訳すると情報量が多くなり、かえって要点が見えにくくなる場合もあります。
そこで、まず「何を伝えたいのか」を整理し、そのうえで短い文、写真、図、見出しなどを組み合わせます。専門的な内容だからこそ、説明を難しくするのではなく、内容を分解して示すことが重要です。これは英語だけに必要な考え方ではありません。子ども、地域の方、初めて工業技術に触れる人など、相手に応じて説明方法を変えるという、私たちが地域での活動を通して学んできた姿勢とも共通しています。
英語に直す作業は、学校の情報そのものを点検する作業でもあります。「この言葉だけで場所の役割が分かるか」「学校を知らない人にも意味が通じるか」「似た施設で表記がばらばらになっていないか」と考えることで、日本語の案内についても改善点が見えてきます。英語対応を進めることが、結果として学校全体の情報の分かりやすさを高めることにつながります。
学校が目指す力を、実際の場面で使う
本校では、教育方針の中で、理数の基礎力、先端技術の活用力、工業に関する知識・技能と並び、グローバルコミュニケーション能力を育成する力の一つとして位置付けています。また、外国語を重視した教育課程を掲げ、国際社会で活躍できる技術者やデザイナーの育成を目指しています。
私たちの英語対応は、こうした学校の方針を、校内にある具体的な課題へ結び付ける実践でもあります。英語の試験で正解するためだけではなく、自分たちが学んでいる技術を誰かに説明するために英語を使う。相手に伝わらなければ表現を考え直し、必要なら情報の見せ方そのものを変える。その過程には、工業高校で重視される問題発見と改善の考え方も生かされています。
一度つくって終わりにしない
パンフレットも校内表示も、一度完成すれば永久に使えるものではありません。学校の教育内容、設備、教室の使われ方、掲載する情報が変われば、英語表記もそれに合わせて見直す必要があります。これまでも、学校パンフレットの英語版作成と実習室にある英語表記の更新を、継続して行う取組として位置付けてきました。
そのため、この活動では「英語にしたかどうか」だけでなく、「現在の学校の姿と合っているか」を大切にしています。古い情報が残っていないか、同じ内容を別の言い方で示していないか、初めて訪れた人が必要な情報を探せるか。こうした視点で少しずつ点検を続けることが、実際に使える英語対応につながります。
言語の違いを、学校を知る壁にしないために
学校の英語対応は、大きな設備を導入する取組ではありません。しかし、案内の一つ、パンフレットの一文が変わるだけでも、それまで情報を受け取りにくかった人にとっては、新しい入口になります。
工業高校で学ぶ技術は、学校の中だけで完結するものではありません。将来、地域や企業、さまざまな国や文化を背景に持つ人と関わる中で、自分の技術を相手に説明する力も必要になります。本校がグローバルコミュニケーション能力を教育上の重要な力として位置付けていることとも、この取組はつながっています。
目指しているのは、英語表記を増やすことそのものではありません。学校を訪れた人が、言語の違いにかかわらず「ここでは何を学んでいるのか」「どんな技術があるのか」を理解できることです。学校の情報を整理し、伝わる形に直し、必要に応じて更新する。その積み重ねによって、学校をより開かれた場所にしていくことが、この取組の役割です。


