9つの取組をご紹介
フェアトレード商品の価値向上
神工有志ボランティアでは、フェアトレード商品を「社会に良いから買うもの」として紹介するだけでなく、商品そのものに魅力を感じて選んでもらうための方法を考えてきました。高校生への調査では、フェアトレードという言葉を知っていても、実際には購入した経験がない人が多く見られました。そこで、工業高校で学ぶレーザー加工やデザインの技術を生かし、商品の背景を大切にしながら、見た目、用途、贈りやすさなどの価値を加える取組を進めました。
実際の販売検証では、通常包装と付加価値を加えた商品を同時に提示したところ、価格が高くても後者を選ぶ人が多く見られました。ただし、この結果だけで加工が購入の原因だったと断定することはできません。私たちは、商品価値と社会的な背景の両方を伝え、「欲しい」と「応援したい」が自然につながる商品づくりを目指しています。
「知っている」と「買ったことがある」の間にあった差

フェアトレードは、より公平・公正な取引を通して、生産者や労働者の生活改善や自立、持続可能な生産につなげようとする考え方です。消費者にとっては、日常の買い物から人や社会、環境に配慮する「エシカル消費」の一つでもあります。しかし、考え方を知っていることと、実際に商品を選ぶことは同じではありません。
活動の初期に高校生を対象として行った調査では、フェアトレードについて認知している人がいる一方、購入経験のない人が多く、「知っている」ことがそのまま購入につながっているわけではないことが見えてきました。私たちが注目したのは、この「認知」と「購買」の間にある距離です。社会的意義を理解しても、それだけで日常の購入につながるとは限りません。価格、見た目、使う場面、贈り物としての魅力など、実際の商品選択には複数の要素が関係します。
そこで、フェアトレードの意義を説明することだけを目的にせず、まず商品として手に取りたくなる入口をつくり、その後に背景を知ってもらうという順序も大切にしました。社会課題を前面に押し出すだけではなく、買い物をする人の視点から「なぜこれを選びたくなるのか」を考えることが、この取組の出発点です。
工業高校の技術で「選びたくなる理由」を増やす
私たちが試した方法の一つが、フェアトレードの焼き菓子と、レーザー加工を施したスチール缶を組み合わせる商品づくりです。缶には文字やイラストなどを加工でき、購入後は小物入れやアクセサリー入れなどとして再利用できます。中身を食べて終わる商品から、使った後にも手元に残る商品へと用途を広げることで、贈答品や記念品として選ぶ理由も生まれます。
ここで重要なのは、フェアトレード商品を別のものに置き換えることではありません。もともとの商品の味や品質、つくられた背景を土台に、工業高校が持つ加工やデザインの技術を組み合わせることです。レーザー加工を使うこと自体が目的ではなく、その商品にどのような工夫を加えれば魅力がより伝わるのかを考えます。商品によっては包装、表示、デザイン、説明方法など、別の手段が適している場合もあります。
私たちの活動では、技術を単に商品を飾るためのものではなく、社会的な価値を消費者が受け取りやすい形に変換する手段として捉えています。工業高校のものづくりは、製品をつくる技術だけでなく、課題を見つけ、試作し、実際に使う人の反応から改善する力にもつながっています。
価格を下げるのではなく、価格の見え方を変える

フェアトレード商品について考えるとき、価格は避けて通れない要素です。公正な取引や持続可能な生産を支える仕組みの背景には、生産者や労働者の生活、労働環境、環境への配慮など、店頭価格だけでは見えにくい要素があります。一方、購入する側から見れば、似た商品と比べて価格差があれば、購入をためらうこともあります。
そこで私たちは、「安くする」ことだけを解決策にしませんでした。商品の背景を伝えながら、加工やデザイン、使用後の用途などを加え、価格に対して感じる価値そのものを広げることを試みました。実際に、通常包装の商品と、加工した缶に入れた価格の高い商品を並べて販売した検証では、缶入りの商品を選ぶ人が大半を占める結果となりました。
ただし、この結果は「缶に入れたから売れた」と証明するものではありません。デザイン、購入者の属性、販売場所、説明方法、商品そのものへの関心など、購買にはさまざまな要因が重なります。そのため私たちは、数字だけを成果として切り取るのではなく、どのような見せ方に立ち止まったのか、価格を確認した後も選んだのか、どの説明に関心を示したのかといった反応も含めて考えるようにしています。
「支援だから買う」から「欲しいから選ぶ」へ
フェアトレード商品の価値を伝えるうえで、私たちが大切にしているのは、善意だけに頼らないことです。「社会のためになるから買ってください」という伝え方だけでは、購入が一度きりで終わる可能性があります。商品そのものに魅力があり、「これが欲しい」と感じて選んだ結果として、その買い物が生産者や社会への配慮にもつながる。その状態をつくることが、継続的な販売を考えるうえで重要だと考えています。
そのため、商品の背景を難しい説明で一度に伝えるのではなく、まず見た目や使い方から興味を持ってもらい、手に取った人が「これは何だろう」と感じたところからフェアトレードについて知る流れをつくります。デザインは社会課題を隠すためではなく、社会課題を知る入口を広げるためのものです。
また、背景を伝える際には正確さも欠かせません。フェアトレードと呼ばれる商品にはさまざまな仕組みがあり、国際フェアトレード認証を受けた商品には、経済・社会・環境に関する基準があります。一方で、すべての商品について同じ生産背景や効果を一律に説明することはできません。扱う商品ごとに確認できる情報を整理し、分からないことを決めつけずに伝えることも、販売する側の責任だと考えています。
買い物を、社会との接点にする

私たちがこの取組で目指しているのは、フェアトレードを特別な人だけが行う特別な買い物にすることではありません。お菓子を買う、贈り物を選ぶ、気に入ったデザインの商品を手に取る。そうした日常の行動の先に、生産する人や環境とのつながりがあることを知るきっかけをつくることです。
高校生が行うことにも意味があります。調査で課題を見つけ、工業技術で試作し、実際に販売し、購入する人の反応を確かめ、改善する。この一連の過程を通して、社会課題を知識として学ぶだけでなく、自分たちの専門性でどう関われるのかを考える実践になります。
私たちは、フェアトレード商品の価格を下げた、あるいは販売の課題を解決したと結論づけているわけではありません。現時点で確認できたのは、社会的な背景だけでなく、商品としての魅力を加えて提示したとき、高い価格でもその商品を選ぶ人が多くいたという事実です。だからこそ、購入理由や価格への受け止め方を丁寧に確かめながら、商品の良さ、つくられた背景、工業高校の技術を無理なく結びつけていきます。
「社会に良いから仕方なく選ぶ」のではなく、「欲しいと思って選んだ商品が、社会にもつながっていた」。そのような買い物の形を増やすことが、私たちの考えるフェアトレード商品の価値向上です。


