9つの取組をご紹介
地域共創の推進
神工有志ボランティアの「地域共創」は、工業高校で学ぶものづくりの技術を、地域の実際の課題解決に生かす取組です。
活動の出発点となったのは、障がい福祉事業所が抱える工賃などの課題でした。レーザー加工や印刷、電気、設計などの技術を使って商品開発や販売支援を始めましたが、活動を続ける中で「高校生が一方的に支援するだけでは、地域に仕組みは残らない」と考えるようになりました。
そこで、障がい福祉事業所、行政、大学、特別支援学校、地域の方々と一緒に考え、それぞれの得意なことを持ち寄る活動へ発展。連携する障がい福祉事業所は、2026年9月時点で17事業所まで広がりました。
私たちが目指しているのは、「高校生が何かをしてあげる活動」ではありません。地域の人と一緒に新しい商品や体験、仕組みをつくり、高校生が卒業した後にも地域に残る形へつなげることです。
学校で学んだ技術を、学校の外へ

活動の出発点の一つとなったのが、障がい福祉事業所で働く方々の工賃に関する課題でした。
工業高校には、レーザー加工や印刷、電気、設計など、さまざまな設備と技術があります。最初は、「学校で学んでいる技術を使えば、商品の価値を高めたり、販売を手伝ったりできるのではないか」と考えました。
実際に、障がい福祉事業所がつくる商品に加工を加えたり、デザインを考えたり、販売したりする活動が始まりました。
しかし、学校の中で「良いものができた」と思っても、それが地域にとって本当に良いものとは限りません。
どんな商品が求められているのか。事業所ではどのような作業が得意なのか。どこまでなら無理なく続けられるのか。誰が材料を準備し、誰が加工し、誰が販売するのか。
実際の地域に出ることで、技術だけでは答えを出せない課題が次々と見えてきました。
「支援する」だけでは続かない
活動を続ける中で、私たちの考え方も変わっていきました。
高校生が商品を加工する。高校生が販売する。高校生がイベントを運営する。
それだけなら、一時的には成果を出すことができます。しかし、高校生には卒業があります。
私たちがいなくなった瞬間に止まってしまう活動では、地域の課題を本当に解決したことにはなりません。
そこで、「高校生が何をしてあげられるか」ではなく、「それぞれが持っている力を組み合わせたら、何ができるか」と考えるようになりました。
障がい福祉事業所には、商品をつくる技術や日々の仕事があります。行政には、人や組織をつなぎ、地域へ広げる力があります。大学には専門的な知識があります。そして工業高校には、ものづくりの設備と、それを学ぶ高校生がいます。
それぞれの強みを持ち寄り、一緒に考え、一緒につくる。
これが、私たちが考える「地域共創」の基本になりました。
神奈川県との連携から広がった「学校の外」
活動の早い段階から、神奈川県福祉子どもみらい局共生推進本部室との連携がありました。
学校の中だけで社会課題について考えるのではなく、出前授業などを通して共生社会について学び、学校外の人と関わる機会が増えていきました。
県とのつながりは、さらに大学との交流にも発展しました。
神奈川工科大学情報学部三枝ゼミとは、技術やアイデアについて意見を交わしてきました。高校生だけで考えていると、「つくれるか、つくれないか」に意識が向きがちです。しかし、違う立場の人から質問を受けることで、「誰が使うのか」「実際に使い続けてもらえるのか」「別の方法はないのか」と考え直す機会が生まれました。
自分たちのアイデアを外へ出し、意見を受け、もう一度学校へ持ち帰って改善する。
地域共創は、学校から地域への一方通行ではなく、地域から学びが返ってくる活動でもあります。
鎌倉市との連携で、「点」から「地域」へ
活動がさらに大きく変化したのが、鎌倉市との連携です。
鎌倉市障害福祉課との連携によって、市内6つの障がい福祉事業所とつながる枠組みが生まれました。
それまでのように、一つの事業所と一つの商品をつくるだけではありません。
それぞれの事業所がどのような商品をつくっているのか。どんな作業が得意なのか。高校生の技術をどこに組み合わせられるのか。
複数の事業所と関わることで、「福祉事業所」とひとくくりにはできないことも分かってきました。
食品づくりが得意な事業所もあれば、木材や布などを扱う事業所もあります。同じ方法をすべての事業所に当てはめるのではなく、それぞれの特徴を知り、その強みが生きる方法を一緒に考える必要があります。
行政が地域との接点をつくり、事業所がそれぞれの得意な仕事を担い、高校生が企画や加工などの技術を加える。
一対一だった連携が、地域の中で複数の人や組織が関わる形へ変わっていきました。
「売る場所」ではなく、「出会う場所」をつくる

地域での実践を重ねる中で、商品販売やものづくり体験に対する考え方も変わりました。
地域で商品を販売する目的は、売上をつくることだけではありません。
普段、障がい福祉事業所と接点がない人が商品を手に取る。その商品を誰がつくっているのかを知る。ものづくりを体験し、その素材や準備に事業所の仕事が関わっていることを知る。
こうした小さな接点を増やすことにも、大きな意味があります。
最初から「福祉について学びたい」と考えている人だけを対象にするのではなく、「楽しそう」「つくってみたい」「この商品が気になる」という入口から参加してもらう。
その結果として、これまで知らなかった地域の人や仕事に出会ってもらう。
私たちは、地域での活動を「販売の場所」から「人と人が出会う場所」としても考えるようになりました。
特別支援学校との交流が、新しい開発を生んだ
地域と直接関わることは、新しい課題を発見することにもつながりました。
茅ケ崎支援学校との交流では、生徒同士が実際に関わり、一緒に活動する機会を重ねてきました。
そこで私たちが出会った課題の一つが、ゲームの操作です。
ゲームの内容は理解できても、一般的な操作方法では参加することが難しい人がいる。
学校の中だけでゲームをつくっていたら、気づかなかったかもしれません。
その経験から、「遊ぶ人に操作方法を合わせてもらうのではなく、操作する道具の方を変えればよいのではないか」と考えるようになり、大型の入力機器や外部スイッチ、改造マウスなどの開発へつながっていきました。
地域の人に完成したものを届けるだけではなく、地域との交流そのものが次のものづくりの出発点になる。
この経験は、私たちが地域共創を続ける意味を強く実感した出来事の一つです。
一つの出会いから、17事業所へ

活動を始めたときから、大きな連携組織をつくろうと考えていたわけではありません。
一つの事業所と出会う。商品を一緒につくる。活動を別の場所で知ってもらう。そこから新しい人を紹介してもらう。
その積み重ねによって、連携する障がい福祉事業所は2026年9月時点で17事業所まで広がりました。
大切なのは、17という数字そのものではありません。
つながる事業所が増えるほど、課題も得意なことも一つではないと分かってきたことです。
だからこそ、「高校生が考えたものを提供する」のではなく、最初に相手の話を聞く。相手がすでに持っているものを知る。その上で、工業高校の技術をどこに組み合わせれば、新しい価値を生み出せるのかを考える。
活動が広がるほど、「つくる前に、相手を知る」という姿勢が重要になりました。
商品から、「続く仕組み」へ

地域共創の取組は、商品開発だけでは終わりませんでした。
商品をつくり、販売する中で得た経験から、障がい福祉事業所の商品や素材そのものを「ものづくり体験」に変える取組も始まりました。
完成した商品を一度販売するだけではなく、体験が開催されるたびに、事業所へ素材や準備作業を依頼できる仕組みにする。
さらに、高校生がいなくても運営できるよう、安全対策やマニュアル化を進める。
私たちの関心は、「高校生がどれだけ活動したか」から、「高校生がいなくなった後にも何が残るか」へ変わっていきました。
高校生が地域の仕事を奪うのではなく、地域に新しい仕事をつくる。
自分たちだけが使える技術にするのではなく、方法や経験を地域へ残す。
一度の支援ではなく、次の活動や仕事につながる仕組みにする。
地域共創の目標は、少しずつそこへ変化してきました。
「支援する側」と「支援される側」をつくらない
地域共創という言葉には、私たちが活動を続ける中で学んだことが込められています。
高校生が一方的に誰かを支援するのではありません。
障がい福祉事業所からは、ものづくりや仕事について学ぶ。行政からは、地域とのつながりを得る。大学からは、専門的な視点や新しい考え方を学ぶ。特別支援学校との交流からは、それまで気づかなかった課題を知る。そして地域の人の反応から、自分たちがつくったものが本当に必要とされているのかを確かめる。
高校生も、地域から多くのものを受け取っています。
異なる立場の人が、それぞれの得意なことを持ち寄る。できない部分は別の人の力を借りる。そして、一人ではつくれなかったものを一緒につくる。
学校で学んだ技術を地域へ持ち出し、地域から得た気づきを学校へ持ち帰り、また次のものづくりへ生かす。
そして最終的には、高校生が卒業しても地域の中に人と人とのつながりや仕事、仕組みが残っていく。
それが、神工有志ボランティアが目指している「地域共創」です。


