9つの取組をご紹介
アクセシビリティ対応ゲームの開発

神工有志ボランティアのアクセシビリティ対応ゲーム開発は、「ゲームそのものは楽しそうなのに、必要なボタンを押せないため参加できない人がいる」という気づきから始まりました。そこで、遊ぶ人に同じ操作を求めるのではなく、大きなキーや外部スイッチなどを使い、ゲーム側と入力方法の両方を見直してきました。
活動はやがて、市販マウスを外部スイッチにつなげる改造マウスの製作へ発展し、特別支援学校での活用や、iPad・Bluetoothなど利用環境に合わせた改良にも広がっています。目標は、特定の人のために特別なゲームをつくることではありません。「遊べない人」がいると考えるのではなく、「遊びにくい仕組み」を見つけ、技術で一つずつ変えていくことです。
「遊びたいのに操作できない」から始まった

もともと私たちは、地域の人に楽しんでもらうためのゲームを制作していました。しかし実際に遊んでもらう中で、十字キーのような小さなボタンを正確に押す操作が難しく、内容に興味があっても参加できない人がいることに気づきました。
その後、障がいがあっても操作方法を工夫することでゲームを楽しめる事例に触れ、「ゲームに人を合わせるのではなく、人に合わせて操作方法を変えればよいのではないか」と考えるようになりました。
私たちが重視しているのは、障がいの有無だけで人を分けることではありません。指を細かく動かすことが難しい、複数のキーを同時に押しにくい、姿勢によって操作できる位置が限られるなど、ゲームへの参加を難しくする理由は一人ひとり異なります。そこで、「できる・できない」を本人の能力だけで判断せず、ゲームのルール、入力方法、機器の配置まで含めて原因を探すようにしました。
数字から見えたのは、ゲームではなく「入口」の違い

活動初期には、連携する障がい福祉事業所で12人にゲームを体験してもらいました。十字キーを使うゲームを補助なしで操作できた人はいませんでした。一方、キーボード全体を使う別のゲームでは10人が操作できました。
ただし、この数字は同じゲームを改良する前と後で比較した実験結果ではありません。異なるゲームを体験した際の記録です。そのため、「入力方法を変えれば必ず10人が遊べる」と結論づけることはできません。それでも、ゲームの内容だけでなく、ボタンの大きさや位置、押し方といった「入口」の設計によって、参加しやすさが変わる可能性を考える重要な手がかりになりました。
実際の開発では、広い範囲で押せるキー、少ない操作で進められるルール、外部スイッチなどを組み合わせています。また、画面の見やすさや色の使い方も確認し、操作だけではないアクセシビリティにも目を向けています。完成したゲームを一度公開して終わりにするのではなく、実際に遊んでもらい、どこで止まったのか、どの操作なら続けられたのかを確かめながら改善を繰り返します。
ゲームから、入力する道具そのものへ


ゲーム側を工夫していくと、次に見えてきたのが入力機器の課題でした。パソコンのマウスは、多くの人にとって身近な道具です。しかし、小さなボタンを指先で押すことが難しい場合、一般的なマウスではクリックという基本操作そのものが大きな壁になります。
そこで、市販のマウスに3.5mmモノラルジャックを増設し、大型ボタンやタッチスイッチなどの外部スイッチを接続できる改造マウスを製作しました。マウス本体を直接押す代わりに、利用する人の体の動きに合わせて、スイッチの種類や位置を選べる仕組みです。
この取組で大切にしているのは、「大きなボタンを付ければ解決する」と考えないことです。押すために必要な力、机や車いすとの位置関係、ケーブルの長さ、接続する端末など、実際に使う場面では多くの条件が関係します。工業高校で学ぶ電気・電子やものづくりの技術を、利用する人の具体的な困りごとに合わせて調整することが、開発の中心になっています。
特別支援学校との連携で、試作品を実用品へ近づける

改造マウスは、ゲームの検証とは別に、特別支援学校との連携の中で試作と改良を進めています。製作した機器を届けて終わりにするのではなく、授業や活動の中で実際に使ってもらい、先生や生徒の反応から次の課題を見つけています。
現場では、パソコンだけでなくタブレット端末が使われる場面もあります。そのため、Bluetooth接続を中心とした機器やiPadでの利用にも対応を広げてきました。また、接続する外部スイッチについても、市販品だけに頼らず、より簡単な構造で利用できる入力方法を検討しています。
この過程で分かったのは、技術的に動作することと、現場で使いやすいことは同じではないということです。教室で問題なく動いた試作品でも、実際の姿勢や机の配置、日常的な準備のしやすさによって改善点が見つかります。だからこそ、現場で試し、意見を聞き、再び学校で改良するという往復を大切にしています。
「一人の工夫」を、ほかの場所でも使える技術へ

アクセシビリティ対応ゲームと改造マウスは、どちらも一人ひとりの困りごとから始まっています。しかし、そこで見つけた工夫を製作手順や仕組みとして整理すれば、別の学校や別の利用者にも応用できます。
私たちは、改造マウスなどの製作方法を他の工業高校にも共有し、それぞれの地域で必要な入力支援機器を製作できる形へ広げることも目指しています。特定の学校だけが機器を作り続けるのではなく、電気・電子、機械、情報などを学ぶ高校生が、自分たちの専門性を地域の課題解決に生かせる仕組みにするためです。
ゲームについても、会場に来た人だけが遊べるものにせず、ホームページで公開し、学校や家庭などさまざまな場所から利用できる形を続けています。
アクセシビリティは、完成した製品に後から機能を付け足すことではありません。「最初から誰が参加しにくいか」を考え、その原因を設計の側から見直すことだと、私たちは活動を通して学んできました。
「できない」を、人ではなく仕組みの側から考える
私たちが目指しているのは、すべての人がまったく同じ方法で操作するゲームではありません。一人ひとりが自分に合う方法を選び、同じ遊びや学びに参加できる環境です。
ゲームをつくることから始まった活動は、入力方法の工夫、改造マウスの製作、特別支援学校との連携、そして他校への技術共有へと広がりました。その根底にある考え方は変わっていません。参加できない人を見つけたときに、「その人には難しい」で終わらせず、「何を変えれば参加できるか」を考えることです。
工業高校で学ぶ技術は、機械や回路を完成させるためだけのものではありません。誰かが参加するための選択肢を増やすことにも使えます。私たちはこれからも、実際に使う人の声を起点に、ゲームと機器の両面から「遊びたい」「学びたい」という気持ちを支える技術を考えていきます。


