9つの取組をご紹介
ものづくり体験教室の運営
神工有志ボランティアの「ものづくり体験教室」は、工業高校の技術と障がい福祉事業所の商品・素材を組み合わせ、参加者が自分だけの作品をつくる取組です。
始まりは、「完成した商品を販売するだけでなく、事業所が持つ素材や得意な仕事そのものに、新しい価値をつくれないか」という発想でした。木材やアクリル、布製品などをものづくり体験に変えることで、子どもから大人まで楽しみながら、障がい福祉事業所の商品や仕事を知るきっかけをつくっています。
これまで延べ426人が参加。参加者へのアンケートや実際の運営を通して内容を改善するとともに、安全対策やマニュアル化、第三者による運営にも取り組んできました。
目指しているのは、高校生だけが開催できる体験教室ではありません。企業や自治体、地域などでも継続して開催でき、そのたびに障がい福祉事業所へ素材の準備や製作などの仕事が生まれる仕組みです。
「商品を売る」以外の方法はないだろうか

障がい福祉事業所との商品開発を始めた当初、私たちは「どうすれば商品をもっと販売できるか」を考えていました。
工業高校の技術を使って加工する。デザインを工夫する。地域で販売する。こうした取組によって、商品の魅力を高め、これまで商品を知らなかった人に届けることができます。
しかし、活動を続ける中で、一つの疑問が生まれました。
完成した商品を販売することだけが、事業所の仕事を増やす方法なのだろうか。
障がい福祉事業所には、完成した商品だけでなく、ものをつくる技術や、素材を準備する仕事があります。それなら、そうした「つくる過程」にも価値を生み出せるのではないか。
そこから、障がい福祉事業所の商品や素材を「販売するもの」だけではなく、「体験するもの」として考えるようになりました。
完成品ではなく、「つくる時間」にも価値をつくる
ものづくり体験教室では、参加者が用意された完成品を受け取るのではありません。
素材を見て、好きなものを選ぶ。デザインを考える。自分の手で作業する。加工される様子を見る。そして、完成した作品を持ち帰る。
木材やアクリルなどを使った作品づくりのほか、布製品へデザインを転写する体験など、工業高校の設備や技術を生かしながら内容を広げてきました。
自分で選び、自分で関わった作品には、完成品を購入する場合とは違った愛着が生まれます。
そして、その体験の中で使っている素材や製品が障がい福祉事業所とつながっていることを伝えます。
最初から福祉について長い説明をするのではありません。
「これをつくってみたい」という気持ちから始まり、ものづくりを楽しんだ先で、「この素材を準備しているのは、地域の障がい福祉事業所なんだ」と知ってもらう。
私たちは、この順番を大切にしています。
福祉に関心がなかった人とも出会える
社会課題について発信するとき、もともとその問題に関心がある人には情報が届きやすい一方で、関心のない人にはなかなか届きません。
ものづくり体験教室には、その壁を越えられる可能性があります。
参加する理由は、「福祉について学びたい」ではなくても構いません。
ものづくりが好きだから。子どもがやってみたがったから。自分だけの作品をつくりたいから。たまたま楽しそうな体験を見つけたから。
そうした理由で参加した人にも、自然な形で障がい福祉事業所の商品や仕事を知ってもらうことができます。
実際に、体験をきっかけとして、その後に障がい福祉事業所の商品を手に取る人もいました。
「福祉を知ってもらうために体験してもらう」のではなく、「楽しい体験の先に、福祉との出会いがある」。
ものづくり体験教室を続ける中で、この形が私たちの大切な考え方になりました。
426人の体験から、改善を重ねる

ものづくり体験教室は、学校の中で考えただけで完成したものではありません。
実際に地域で開催し、これまで延べ426人に参加してもらいながら改善を続けてきました。
参加者はどこで迷うのか。説明が必要なのはどの工程なのか。子どもでも自分で選べるか。待ち時間が長くなっていないか。完成したときに満足してもらえるか。
運営する側が「分かりやすい」と思っている手順でも、初めて体験する人には伝わらないことがあります。
そこで、参加者の反応やアンケートも確認しました。ある実証では、回答した62人全員が体験に満足したと回答し、再び参加したいという質問にも全員が肯定的に回答しました。
この結果は、単に高い評価を得られたというだけではありません。
「障がい福祉事業所の商品や素材を、ものづくり体験へ変える」という考え方そのものに、参加したいと思ってもらえる可能性があることを確認できた結果でもあります。
一方で、参加者が増えれば、運営の難しさも増します。
だからこそ、評価を成果として終わらせず、実際の運営で見つかった課題を次の体験教室へ戻し、改善を続けています。
高校生がいなければできない。それでは続かない

参加者が増え、体験教室としての手応えが生まれる一方で、大きな課題も見えてきました。
それは、「高校生がいなければ開催できない」ということです。
機械の操作を知っている生徒が必要。準備方法を知っている生徒が必要。経験のある生徒が説明しなければ進まない。
この状態では、どれだけ参加者に喜んでもらえても、高校生の卒業とともに活動が止まってしまいます。
そこで私たちは、「自分たちが上手に運営する方法」から、「初めての人でも運営できる方法」へ考え方を変えました。
安全に、誰でも運営できる形へ
ものづくり体験では、楽しさと同時に安全性が欠かせません。
特に工業高校の設備や加工技術を利用する場合、「高校生が慣れているから大丈夫」では、地域へ仕組みを広げることはできません。
そこで、使用する機器や工程を見直しました。
レーザー加工では安全に作業できる状態を保ち、熱を使用する工程についても、参加者が危険な部分へ直接触れなくても体験できる方法を採用しています。
さらに、材料の準備、受付、説明、加工、作品の受け渡し、片付けまで、運営全体を整理してマニュアル化しました。
誰が担当するのか。どこで安全確認をするのか。参加者へ何を説明するのか。
経験や感覚に頼っていた部分を、初めて担当する人にも分かる形へ変えていきました。
「本当に初めての人でもできるか」を試す
マニュアルをつくっただけでは、本当に誰でも運営できるかは分かりません。
そこで、ものづくり体験教室をこれまで運営していなかった人にも実際に担当してもらい、第三者による運営を検証しました。
初心者2人による運営でも、1日に約60人へ対応できることを確認しました。
ここで私たちが確かめたかったのは、「高校生と同じように上手にできるか」ではありません。
初めて担当する人でも、安全に、無理なく、参加者が楽しめる体験を提供できるかということです。
高校生しか知らなかった方法を、他の人も使える仕組みに変える。
この検証によって、ものづくり体験教室を学校外へ広げるための大きな一歩が生まれました。
「体験教室そのもの」を地域の仕事にする
現在、私たちはものづくり体験教室を、単発のボランティア活動で終わらせない方法を考えています。
企業、自治体、商業施設などが、地域向けの企画や社会貢献活動としてものづくり体験教室を開催する。
開催に必要な素材や準備作業を、障がい福祉事業所へ依頼する。
地域の人が参加し、ものづくりを楽しむ。
そして、次の開催が決まれば、また事業所へ仕事が生まれる。
完成した商品を一度販売するだけではなく、「体験が開催されるたびに仕事が生まれる仕組み」をつくることができれば、障がい福祉事業所との新しい仕事の形になります。
高校生が無料で働き続けることで成り立つ仕組みではなく、地域の中で継続して動く仕組みにすることが重要です。
「つくる楽しさ」と「地域の仕事」をつなぐ

ものづくり体験教室を始めたとき、私たちが考えていたのは、障がい福祉事業所の商品や素材をもっと多くの人に知ってもらうことでした。
しかし、実際に多くの人に体験してもらい、運営方法を改善する中で、その役割は少しずつ広がってきました。
ものづくりを楽しむ人と、障がい福祉事業所をつなぐ。
完成した商品だけでなく、素材や準備作業にも価値をつくる。
高校生だけが持っていた運営方法を、地域の人も使える形に変える。
そして、体験教室が開催されるたびに、地域に新しい仕事が生まれる仕組みをつくる。
高校生が卒業しても続いていくものを残すためには、「自分たちが何回開催したか」よりも、「自分たちがいなくても次の開催ができるか」の方が重要です。
参加者の「つくって楽しかった」という時間が、障がい福祉事業所の次の仕事につながる。
その循環を地域の中につくることが、神工有志ボランティアが「ものづくり体験教室」で目指していることです。


